兎の語源

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「うさぎ」の語源の有力説として、サンスクリット語由来説と朝鮮語由来説がありますが、その他にも色々な説が存在します。

兎の語源について非常に多くの説を紹介しているのが「 十二支攷 」と云う本で(7冊揃いで、大きな図書館には大抵置いてあると思います)、このページでも殆どここを参考にしているのが現状です。そこで紹介されている文献にも、少しずつ当たっていく心算です。

2004年3月29日全面改訂。内容が大幅に難しくなったような。基本的に、兎の語源については「これで間違いない」と云える説はありません。それっぽいなと思える説がいくつかあり、それはないだろと云う説が多々あると云った状態です。みんながこんなに沢山兎の事を考えてきたのね……と思うと、なんだか楽しくなるのです。

つうか未だ発展途上なこのページですが、いつか完成するんでしょうかねえ……。

目次
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各説の大まかな分類

諸説を分類すると、以下のようなものがあります。

「う」の字に着目した説
  • 「う」と云う言葉に、「さぎ」が追加されたとする説
  • 「うさぎ」と云う言葉があり、其の後「う」とも呼ばれたとする説
兎の形態に着目した説
  • 兎の毛に重点を置いたもの
  • 兎の仕草・行動に重点を置いたもの
  • 兎の外見に重点を置いたもの

このページでは、「うさぎ」を「う+さぎ」に分けて考える説と「うさぎ」と云う言葉がまずあったとする説に分けて各説を紹介していきます。

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はじめに「う」ありき

兎は、元々「う」と呼ばれており、これに後から「さぎ」と云う言葉がつけられたとする説です。このパターンが一番多く見られます。

ウサギは元々「ウ」と呼ばれていましたが、これにサンスクリット語のウサギの意である「ササカ」が加わり、「ウササカ」が「ウサギ」となったとするもの。

動物名の由来」(中村弘、東京書籍)もこの説を支持しており、ウサギの異名をヲサギ(乎佐芸)ともいうが、これはウサギ(宇佐岐)の訛ったものだろうとしています。

「乎佐芸」と云う言葉は万葉集などで見つける事が出来、契沖は「和字正濫鈔」東の俗語にて都の方に通せぬ言か、と述べています(十二支攷からの又引きです)。

兎が元々「う」とだけ呼ばれていた事については、十二支攷は以下の様な例を挙げています。

まず、日本書紀で、例えば菟穂名と云う名をあげて、「菟」を「う」と読ませている事。私は日本書紀全部には目を通していないのですが、その他に『菟』で「う」と読む名の人物として、応神天皇の子供に菟道稚郎子(うぢのわきいらつこ)、紀之菟野(きのうの)、菟道稚郎姫(うじのわきいらつひめ)なども出てきます。現在の京都府宇治を元々は「菟道」と書いていたようで、平成疑問かなづかひの「宇治」の項には『神功攝政』元年に「菟道(うぢ)」で初見と書かれていました。この辺、気が向いたら他の文献も当たってみるかも。

次に、「扶木抄」について、私は文献をあたっていないので、十二支攷からそのまま引用します。

『扶木抄』巻第二十七にはウサギ(ちるくる注:刀に兎)「露に臥すうの毛のいかにしをるらむ月の桂の影を頼みて」とあって、うさぎのことをといっている。

「扶木抄」と云うのは、「夫木抄」と云う鎌倉時代の私撰和歌集(らしい)と同じなのかな、ちょっとこの辺まだちゃんと調べてません。

大畑春国の『瑞兎奇談』は「単音にウとのみ約めて呼ばるるも古言の一格なり。息をイと云ひ、(中略)鳥をトと云へると同じき例なり」として、まずうさぎの語があって、のちにの語ができたことを述べているが、『和訓栞』には「兎もうとばかりよめり。うさぎは後の訓成べし」と言い、『大言海』ではの条に「此の獣の本名なるべし。古事記上に『裸なる菟伏せり』、継体紀に『菟の皇子』などある、皆うと訓むべきのものの如し」とあって、うの語ができた後にさぎが付加されたものとしている。

ウ+ササカ(舎舎迦)

大言海などで紹介されている説で、有力説。

本名うニテ、さぎハ、梵語、舎舎迦(刀+兎)ヲ合セテ略轉シタル語カトモ云フ、(穢し、かたなし。皸(アカガリ)、あかぎれ)顛倒ナレド、乞魚、鮒魚、貽貝ナド、漢和ヲ合シタル語モアリ、朝鮮ノ古語ニ、兎ヲ烏斯含(ヲサガム)ト云ヘリト云フ(金澤庄三郎、日鮮古代地名)。

倭訓栞にもこの説が挙げられている事から、相当古くから云われているようです。

兎をいふ うは本名 さきは兎を梵に舎迦といへるによりて合せ稱する成べし 萬葉集東歌にはをさぎともよめり今も田舎にしかいへる人あり蝦夷にいせほといふ

蝦夷にいせほといふと云う一文がある事を覚書。

ちなみに、倭訓栞(和訓栞、わくんのしおり)は国学者の谷川士清が編纂した五十音順の辞書で、18~19世紀にかけて刊行されたものです。

ウ+thok

日本語「ウ」に朝鮮語「thok」が付加されたとする説。語源辞典 動物編によれば、この説が日本国語大辞典で紹介されているようですが、詳細はまだ調べてません。以下国語語源辞典からの又引きメモ。

服部四郎氏監修「世界言語概説」(下、p.294)に――「朝鮮語の歯音、歯茎音で始まる語の語頭に、日本語で母音が添う例」をあげた中に、日本語usagiに対して、朝鮮語t'o-kki(兎)があげてある。

更に、梵語「舎舎迦」を否定・かつthok説を裏付けようとする試みが為されているとの説明がありました。

上田万年氏等の「日本外来語辞典」――朝鮮語thok(兎)にウが接頭したものと解し、thは有気音だから、日本語に取り入れるにはtまたはsとするほかはなく、この場合sとして、u-sok>u-sag>u-sa-giとなったものとしている。梵語ではsasakaだから、サギとなるわけはない、という。

ウの由来

以上に挙げてきた例では、「サギ」の説明はしていても、必ずしも「ウ」の成立を説明している訳ではありません。「う」と云う言葉自体の語源についても述べたものとして、以下のような説があります。

産む

倭訓栞「う」の項から。

兎もうとはかりよめり。うさぎは後の訓成べし。吐きて子を生むといへば易産の意にて名づくるなるにや。

「楽々ぽんぽん子供を生む」の「う」ってことでしょうか?

猪+細毛

毎度おなじみ、十二支攷からの又引き。

松岡静雄『日本古語辞典』では、「ウ」を朝鮮語であるとしているようです。

ウは猪を意味する古韓語ヲの分化か。サギはサ(細)ゲ(毛)の転呼(中略)、鹿毛の野猪と区別する為にサギ(細毛)を添へたのであろう。

経尊「名語記」から。兎のかがんだ様子を物憂う様子に重ね、兎の「う」を「憂く」の「う」から来たものとする(十二支攷から又引き)。

中と浄

松永貞徳「和語のしるべ」に、うさぎ、うは中(うち)か。さきは浄か。月の中いさぎよきとき、此獣の形、月にあらはるるなり。月を玉兎と申す古事侍りとある、と十二支攷から又引き。

なお、十二支攷は続いて白石の言葉を引いています。

新井白石も、『東雅』鷺の項に「鵲をカササギといひ、又兎をウサキといひ、猿をもサルというが如き、これら其潔き義あるべしとも思はれず。鵲は噪き、兎はキョウ(走+喬)捷善く走るもの。猿は躁動、物を害ふものなり」と述べて、うさぎのさぎは潔き意でなく、躁すなわち「喧しく騒しき義なり」としている。

堀井令以知編語源大辞典では、万葉集東歌から、「ヲサギ」が先にあり後に「ウサギ」となったとして、ウサギのサギは鷺と同系かと書いています。

また、 暮らしのことば 語源辞典 では、サギは鷺の意で、鷺のように白いことからといわれるとあります。

十二支攷からの又引きですが、元禄時代の『和字正濫鈔」には「うさぎとは愛鷺(うさぎ)という意か。鷺に似てうつくしければなりとあり、服部宣『名言通』には兎。ヲソ(偽)サギ(鷺)なり。とあって、明治の宇田甘冥『本朝辞源』には内へうつぶきたるさぎなり。さぎとはさらりときよきを鷺と云ふゆへ、夫より転じてうつぶきさぎと名づけしなりとしているようです。最後の説は前述の中と浄の項と同じような考え方です。

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「ウサギ」の形

殆どの説は、「をさぎ(おさぎ)」が転じて「うさぎ」となったとするものです。

朝鮮起源説

高句麗語「ヲサガム(烏斯含)」が変化したとする説。金澤庄三郎「日鮮古代地名の研究」より。

烏斯含達の古音はO-sa-gam-tarにして、これを兎山と改めたるは、其の義訳なり。即ち兎の古名はOsagamと覚しく古く山をTarと謂へり。

なぜ日本の朝廷では朝鮮語が教養ではなかったか?と云うスレッドが見つかりまして、丁度烏斯含達の部分を書いているレス(316、339)があったので、有難く引用させて頂きます。引用ばっかりでごめんなさい。

高句麗語の再構築の方法の概略についてですが、三国史記の地志で旧高句麗領地の地名を新羅の景徳王が変更した、という記事が多数出てきます。これで、高句麗語地名の漢字表記と新羅地名に変換後の漢字表記を対比することが可能となるわけです。

例えば「兎山郡、本、高句麗、烏斯含達県」というのがあり、「達」が「山」に対応するので、「烏斯含」が「兎」対応するものと考えられます。そうすると「烏斯含」の音はosieGemなので、日本語 wosagi に対応する、と。現代日本語で強いて読めば、烏斯含達=うさぎだけ(兎岳)。

まぁ、こういうふうな対応づけの結果、高句麗語には日本語とおそるべく一致する語彙が多いことが判明したのです。

半島に、倭語あるいは倭語と同系統の言語を話す民族(倭人かもしれない)が存在していて、かつ、それらの地名を付けていたというのは、 それらの地名変更記事により避けられない事実であるというのに同意。

ただし、その地名変更をした時点で、烏斯含達『うさぎだけ』を、兎山へと変更できたということは、『うさぎだけ』の意味を理解できる人たちが存在していたということも意味する。

もちろん、言語として理解していたかどうかはなぞで、なんかなぞな地名だけど、意味は兎山ということらしい、という言い伝えのみが残っていた可能性もあり。

薄毛の転化

益軒の「日本釋名」にうすげ也。其毛うすし。すげとさぎと通ずとあります。これも兎の「毛」に視点を置いた説の一つ。

兎の飛び跳ねる姿

設段(ヲサギ)。

藤堂明保・清水秀晃「日本語語源辞典」(現代出版)から。

先述の「乎佐芸」は上代東北方言ではなく、むしろ原型であるとする。「設(ウサ、ヲサ)」はヲサム(治・管理・修・収・蔵)のヲサに同じく、ことのさまを仕分けて整えること予めことに対して構える姿勢であり、これが兎の身を屈めたような姿勢をさしており、「段(ギ)」はその後に足に力を入れて前へ段躍(ジャンプ)して走る姿勢をさしているとする。

兎の仕草に着目した説。

尾の形

十二支攷からの又引き。オサキ(尾先切)が転訛したものとする、大石千引『言元梯』に拠る説と、山本章夫『万葉古今ニ集動植正名』のをさぎはをそぎの義なるか(さそ通音)。尾小にして、そぎたるごときゆゑ、をそぎと名づくるならむ。

耳と唇の形

長い耳と兎唇に注目して、「薄(ウス)+上顎(アギ)」、「失(ウス)+顎(アギ)」と云う考え方が 語源辞典 動物編 (吉田金彦 編著、東京堂出版)にて挙げられています。

これはちょっと珍しい、「うす+あぎ」で「うさぎ」となったとするパターン。

十二支攷からの又引きですが、林甕臣の『日本語源学』にうさぎは耳房長みみふさなぎの義とあるようです。なお、十二支攷の著者、前尾繁三郎はこのような、兎の特徴に着目した説をそのいずれも採るべくもないとしています。

草食ひ

牛・兎は草食の家畜であるためクサクヒ(草食ひ)と呼んだ。「ク」の子交[kf]、クヒ[k(uh)i]の縮約でフサキに転音し、「フ」の子音[f]が脱落してウサギ(兎)になったとする、この説は「音韻変化論からさぐる 日本の語源」と云う本から。音韻変化によって言葉が分化されていったとする「国語音韻変化論」の立場から、様々な言葉の語源を探る試みをしている本です。

右左疑

十二支攷にて紹介されていた、神田玄泉『食物知新』の説。「右左疑(うさぎ)。和名。情を以て名づく。」として、兎の遅疑逡巡する性質を漢語であらわしたものと解しているとの事。

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海外の「兎」、その語源

この項目は、現在勉強中です。なお、動物の歴史と云う本に、かなり詳しく関連情報が記されておりますので、気になる方はそちらをあたってみましょう。

この項目は、いずれファイル分割して別途まとめるかもしれません。

ノウサギ

hare

アングロ・サクソン語「ハーラ」から。これが元で、兎の捕食者であるシロフクロウは「ハルファング(ハーラを捕る者)」と呼ばれるようになった(出典:ウサギの不思議な生活)。

アナウサギ

ラビット・コウニー

アナウサギが移入された12世紀頃から、ノルマン・フランス語の「コニン」が訛って、アナウサギは始め「コウニー」と呼ばれていたが、14世紀頃からフランス語の「ラベット」から「ラビット」と云う言葉が登場(出典:ウサギの不思議な生活)。

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参考文献/参考サイト

 兎の語源の主たる説を記しましたが、更に詳細を知りたい方は前尾繁三郎の「十二支攷」の卯の項を是非参照して下さい(そこに載っている文献について新たに調べがついたら、こちらでも紹介したいと思います)。

WebSites
Books

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